本記事のテーマは「英語の勉強方法」です。
私達医療従事者は英語の論文を漁り読み、英語で論文執筆をされたり、中には海外で学会発表されたりする方がいらっしゃるはずです。
また医療従事者に関わらず、海外出張、海外ビジネス、海外旅行はもちろんのこと、日本語の話すことの出来ない留学生が友人になったり、配偶者になる可能性もゼロではありません。
その英語の必要性を社会人になってから感じる方は少なくないはずです。
そこで、私の英語の勉強方法をご紹介したいと思います。
・・・と、その前に実は日本人はそもそも言語学的に英語が苦手ということをご存知でしょうか?
まずは、そのことについて触れたいと思います。
いつも以上に前置きが長くなりますがご了承ください。
英語の勉強に取り掛かるにあたって・・・
まず、英語の勉強に取り掛かろうとする前に、大前提の重要な話をします。
それは・・・「隙間時間を継続的に確保できる」ことです。
日々、英語の必要性は感じていても、働きながら英語の学習はなかなか進みません。
勤務、家事、育児、休養・・・我々社会人は隙間時間を見つけてやるしかありません。
それでもって趣味の時間にも割きたいため、結局英語の勉強は後回しに・・・となりがちです。
英語に関わらず、母国語以外の勉強となると、「この週は1日しか勉強する時間がなかった」、「土日だけ1時間ずつすればいけるやろ」といった感じの勉強では身に付きません。
毎日○時間ずつ、○分ずつ継続的にすることで身に付いていきます。
例外的に、要領の良い方であれば、土日祝日にまとめて勉強することで身に付く方もいらっしゃるかもしれませんが・・・。
外国語を勉強される方は、まず「どれくらい勉強時間を確保できるか」、「1週間で何日確保できるのか」、「趣味と両立できそうか」などを十分に吟味と計画を立ててから勉強に取り掛かることをおススメします。
後述する「日本人は英語が苦手」で説明しますが、日本人が英語の習得には3000時間くらい必要と考えられています。
継続的な時間の確保できない場合は英語の習得は諦めざるを得ません。
ただし、興味があるのであれば英語以外の言語を習得するのも一つの道です。
中国語やスペイン語など使用話者人口が多い言語はあります。
日本人が習得しやすい・しにくい言語がありますので、是非ご一考いただきたく思います。
日本人は英語がなぜ苦手?
少し統計的な話をします。
日本人はそもそも、データ的にも英語が苦手な民族とされています。
どれくらい英語が苦手かといいますと、英語能力指数(EF:Education First)ランキングにおいて日本人の英語レベルは世界第80位(111ヶ国中, 2022年)、アジアでも第26位(アジア29ヶ国中)という驚愕のデータがあります。
(おい、日本人。もっと頑張れよ。)
いいえ、日本人の勉強不足が原因でこのような結果に至ってしまっているということではありません。(習慣的な意味では勉強不足なのですが・・・。)
日本人が英語を苦手とする理由がいくつかありますので挙げさせていただきます。
【英語能力指数(EF:Education First)】
言語間距離
まずは決定的なことからお話します。
それは「言語間距離」といって、母国語を基準とした他言語の習得難易度を表す概念があります。
少し古いのですが、アメリカ国務省機関の外務職員局(FSI:Foreign Service Institute)が公表した英語を基準とした各言語の習得難易度を三段階(Hard, Medium, Easy)にて分類した表があります。
importance of languages.com「What are the Easiest Languages to Learn?」:https://www.importanceoflanguages.com/easiest-languages-to-learn
importance of languages.com「What are the Easiest Languages to Learn?」:https://www.importanceoflanguages.com/easiest-languages-to-learn
importance of languages.com「What are the Easiest Languages to Learn?」:https://www.importanceoflanguages.com/easiest-languages-to-learn
importance of languages.com「What are the Easiest Languages to Learn?」:https://www.importanceoflanguages.com/easiest-languages-to-learn
これによりますと、英語のnative speakerにとって習得が難易度が最も高いカテゴリーに分類されているのが日本語です。
つまりは逆もまた然りで、日本語を話す私達日本人にとって英語の習得というのは、どの言語を勉強するよりも難易度が高いということです。
日本人が英語を習得するには2000〜3000時間程度必要であるとも言われています。
FSIの表によると、英語のnative speakerが日本語の習得に2200時間、フランス語、イタリア語、スペイン語の習得には600時間程度必要とされていますので、如何に日本語と英語の言語間距離が離れているということが解りますね。
上記のことを踏まえると、ヨーロッパ人が英語、フランス語、イタリア語、スペイン語と3、4ヶ国語とマルチリンガルなことがあるのは驚くことではないのです。
「英語が上手く習得できない」=「他の外国語でも習得が難しい」とはなりません。
語学研修で実績のあるDILA(ディラ国際語学アカデミー株式会社)の独自研究に基づくと、日本人が習得しやすい言語は韓国語を始めとして、インドネシア語、スワヒリ語、マレーシア語あたりのアジアの言語が習得難度が比較的易しいとされています。
ディラ国際語学アカデミー「最適な語学研修方針」:https://dila.co.jp/business/policy/
次に習得難度が比較的易しい言語がスペイン語、ポルトガル語、トルコ語、中国語、ベトナム語といったものが挙げられています。
英語の習得が難しそうな場合は、他の言語を検討してみては?
私も英語以外の教材は持っています。スペイン語とフランス語ですね。
なお、英語で精一杯のため、放置されていますが笑
発音の違い
日本語と英語では、発音時の舌の使い方、唇の形が異なります。
そのため、「L」と「R」が聞き取れないことや、「L」と「R」に「ラ行」がごちゃ混ぜになるという日本人特有の英語習得時の壁があります。
日本語の母音は5個、子音は16個ありますが、英語に関しては母音は24個、子音は24個もあります。
「Th」など日本語にはない舌の使い方や発音が数多くあるので、日本人は正確に発音することが難しいのです。
そして、発音が上手くできない音というのは、上手く聞き取ることが難しいのです。
そのため、日本人は英語を理解することが困難となっているのです。
文法、構文の違い
再確認しますが、日本語と英語は言語間距離が遠いため、第二言語習得の観点から日本人は英語が苦手です。日本語は語尾を変化させ活用する「膠着語」であり、英語は動詞そのものが変化して活用する「屈折語」ということもあり、そもそもが言語学的分類で異なります。
日本人の英語習得を苦しめている原因というのは何と言っても、英語の「文法」、「構文」にあります。
ご存知の通り、日本語は「SOV型(主語(名詞)+目的語(修飾語)+述語(動詞))」の文系をとり、「私は+英語を+学ぶ」という感じで構成されています。
一方で英語はというと、「SVO型(主語(名詞)+述語(動詞)+目的語(修飾語)」の文系をとり、「I learn English.」→「私は+学ぶ+英語を」といった風に語順が日本語とは全く違う語順となることが日本人の英語習得難易度が高い原因となっています。
日本語では普段日常で使用している語順が、英語では主語を言った後に英文の後ろから戻りながら訳さないと自然な日本語に訳していけません。日本人は感覚的に英語に馴染めないのです。
ちなみにですが、世界的に見て、SVO型の言語の方がSOV型よりも多く存在しています。
フランス語、イタリア語、スペイン語などはSVO、ドイツ語はSOV型となります。
英語習得の動機付け
私達日本人は日本で生活している限り、滅多なことで英語で話す人と出会うことはありません。
「英語を使用する機会が少ないため、英語を必要としない。だから、英語を学ぼうとは思わない」・・・となります。
そのため、英語習得の動機付けが弱いので、英語が身に付きにくいのです。
ウエスタン・オンタリオ大学(University of Western Ontario)の教授 ガードナー先生(R.C.Gardner)によって、第2言語動機付けの研究がされています。
ざっと当論文を読んだのですが、ガードナー先生は動機付けと第2言語学習者や習得を考える際、2種類の動機付け要素を考えることができると仰っています。
ただし、ここでの2つの動機付けというのは、他の研究文献でも良く議論される「統合的-道具的二分法(integrative-instrumental dichotomy)」または「内在性-外在性の動機(ntrinsic-extrinsic)」ではなく、「統合性」と「学習状況に対する態度」が重要であるとのこと。
それにプラスして「道具的志向」「親の励まし」が第2言語習得の正の相関があると提言されています。
逆に負の相関があるとされるのは、「言語不安」であるとされています。
英語の勉強に不安を抱えているほど英語の成績が低い傾向にあるということ、つまり「やる気」がある学習者ほど成績が良いということです。
「Motivation and Second Language Acquisition」
R.C. Gardner, University of Western Ontario, PORTA LINGUARUM 8, junio 2007,
Received: 26-1-07 / Accepted version: 10-02-07 ISBN: 1697-7467
https://digibug.ugr.es/bitstream/handle/10481/31616/Gardner.pdf?sequence=1&isAllowed=y
Outputの場の少なさ
やはり、何事にも学習する上で重要なのがoutputすることです。
先述した通り、日本で生活する限り、英語を話す機会も書く機会もほぼありません。
つまり、Outputする機会が無いのです。
ですので、Moegi体験ですが、たまに院内見学に来られる海外の先生と会話することとなり絶望するのです。「英語の勉強を何故してこなかった、自分・・・」と。
実は日本では、Input作業自体は中学・高校の英語の授業で、単語・文法・reading・listening中心に学習が実施されているため、学生時代に真面目に英語学習に取り組んでいれば、ある程度のInput作業というのはクリアしているのです。
ほらやっぱり、学生時代に真面目にしてこなかった自分が悪いやん!!
言語習得で重要なのは「充分量のInput」です。
充分量の語彙力(vocabulary)、正確な文法、正確な発音とアクセントが身に付いていないままOutputの練習をしても英語は習得できないからです。
しかしながら、第2言語習得では「充分量のOutput」も必要となってきます。
ここで、「ん?」と思われた方はいらっしゃると思います。
何当たり前のことを言っているのかと。
実は「受容性バイリンガル」という海外で子供を育てた際に生じる現象があります。
例えば、日本人の両親+子供という3人家族が海外で暮らすことになったとします。
当然、自宅では両親とは日本語で会話をするでしょう。
しかし、1日の大半を学校など自宅外では英語で会話して過ごす環境で生活を送っていると、両親からの日本語の会話を英語で返事してしまうようになる現象です。
しかも、両親の日本語は理解できるのに日本語が話せなくなるということにもなってしまうのです。この現象が「受容性バイリンガル」と呼ばれています。
この受容性バイリンガルの事例より、Input作業は第2言語習得には不可欠だが、Output作業をしないと身につかないということです。(逆にOutput機会の減った日本語を話せなくなるという)
日本の教育面の影響
日本人が英語を苦手とする「最大の原因」が言語間距離であると何度も説明しました。
では、日本人が英語を苦手とする「最大ではない原因」について触れたいと思います。
発音、文法、動機付け以外で、大きな原因があると私は考えています。
その原因とは、日本の英語教育面の問題です。
英語学習時間が少ない
そもそも、日本人の学生時代のトータル英語学習時間が少ないのです。
中学校、高校と6年間英語の勉強をしているはずなのに、「どうして身に付かないのか」と不思議に思いませんか?
英語の授業は週4〜5時間とすると授業だけのトータル英語学習時間は800時間程度です。
自宅学習の時間なんて難関高校・大学を受験しない限りは宿題をこなす程度の時間しかしていないと考慮しても、日本人の英語習得に必要な時間の2000〜3000時間には遥かに及ばないのです。
近年小学校でも英語の授業が取り入られていますが、それでも英語学習時間の絶対数は少ないのです。
うん。子どもには英語の英才教育をしないとですね。
我が子にも6ヶ月から英語聞かせます!!
ちなみにですが、幼少期からの英語学習はいつからが良いのか?
それは、生後6ヶ月から始めるのが良いそうです。
日本人の赤ちゃんの場合、6〜8ヶ月の間は「L」と「R」の聞き分けができるのに対し、10ヶ月以降は「L」と「R」の聞き分ける能力が急激に低下するという報告があるようです。
なら、生後間も無く英語教育をすれば良いのでは?と思われるかもしれませんが、それだと母国語の日本語習得に影響が出ると何とか・・・。
どちらにせよ、英語教育を始めるのは英語学習時間の兼ね合いから、早ければ早いほど良いということですが、生後間も無い新生児期〜数ヶ月から始めるのは避けた方が良さそうです。
親の私達の勉強にもなるため、親子で楽しく英語習得を目指したいですね。
教える親も「L」と「R」の発音は正しくできるようにしたいです。
「F」、「V」、「Th」とかもそうですね。
「Foreign-language experience in infancy: Effects of short-term exposure and social interaction on phonetic learning」, Patricia K. Kuhl, Feng-Ming Tsao, and Huei-Mei Liu, July 14, 2003, 100(15)9096-9101
学生時代の英語学習方法が元凶
中学校と高校での英語学習方法そのものが、日本人の英語力が身に付かない原因となっているのです。
いわゆる「受験英語」というものです。
私自身、中学時代は英語の成績はそれなりでしたし、高校時代はスパルタ英語教師の下で英語を勉強してきたつもりです。
ですが、社会人になって10年近くになりますが、学生時代に培ってきた英語力は、論文はある程度読めるものの、ほとんど話すことも書くことも出来なくなってしまいました。
「受験勉強」が如何に英語が身に付かないかということですね。
高校卒業してから英語から離れてしまったので、というのは言い訳にしかなりませんが・・・。
今頃になって再度勉強中です。
では、具体的には日本の受験勉強の何がいけないのでしょうか。
それは、日本の中学校、高校での英語学習方法というのは「文法訳読法式」と呼ばれます。
分かりやすく言いますと、「文法を重視し、母国語で読解する方式」です。
例文で説明しましょう。以下の例文を訳してください。
I learn English to read papers in English.
特に訳し方の指示なければ、皆さんはこう訳すでしょう。
英語の論文を読むために英語を勉強する。
しかし、英語の語順で訳すとしたら
私は / 学ぶ / 英語を / 読むために / 論文を / 英語の。
となるはずです。
日本語と英語の語順が異なることを先述しましたが、英文を自然な日本語に訳す場合は、後ろから訳さなければなりません。
文章ならまだしも、会話ならどうでしょうか。
頭の中で自然な日本語に訳すには、最後まで聞かないとできません。
しかしながら、頭の中で訳していくうちに最初に聞いた単語からどんどん消えていくのです。
短いフレーズでの英会話なら理解できるが、スピーチなど長文になればなるほど追いつけなくなるのです。
日本の学生は、受験戦争に勝つために文法を身に付けさせられ、文法訳読法式で日本語に訳しながら英語を理解することで英語を学習してきたために、文章なら理解できるが、英会話などでコミュニケーションができないという実態に陥るのです。
日本の英語教育方法が日本人の英語力低下の元凶となっているのです。
日本の歴史において、明治から昭和の時代にかけての文明開花や高度成長、そしてバブル期には「読解力」が重視された教育スタイルが根付いていました。このやり方により、一部のエリートが英語を習得し、外国の最新知識を日本語に翻訳することで、私たち日本人は最小限の労力で自国語で学術知識を取り入れ、経済発展を遂げることが可能でした。
しかし、令和の現代においては状況が変わりつつあります。それは過去の「西洋列強に追いつく・追い越す」という目標から、日本は「世界に追い越される側」としての立場を考えなければならない時代に突入したからです。
この新たな時代においては、ビジネス、学術、文化交流などの場面で、英語での「話す能力」や「表現能力」が一層重要性を増しています。過去の教育スタイルは一定の成果を上げたものの、現代の要求に応えるためには、英語でのコミュニケーションスキルの向上が求められます。
日本は、魅力的な文化や技術を世界に広め、新たな産業を起こし国際競争力を維持するという新たな局面に向けて挑戦していく必要があります。
(編集部拝)
さいごに
というわけで、今回は日本人が英語を習得しにくい背景について解説しました。
しかし、英語が習得しくいからといって、英語から逃げられるわけではないことが現実です。
日常から何らかの形で英語と付き合っていきたいものです。
もちろん、英語より圧倒的少ない学習時間で習得できる言語もあるので、是非とも一考してみては?
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